白の世界

プロローグ

 なんとも無い日常が過ぎ去ってゆく中、
 とても長い時間の中、それは風のように疾走した。
 何処までも、何処までも行こうと僕は言った。
 闇は答えた。
 美しさを纏った闇はこう言った。
 強さを持ちえた闇はこう言った。

 ――アナタは、光。

 なんとも無い日常が過ぎ去ってゆく中、
 とても長い時間の中、それは光のように疾走した。



 光が弾ける。
 コンマ一秒、先ほど首があった所を真紅の閃きが穿孔する。
 羽のような軽さを思わせる速度に、絶対の重量を思わざるを得ない破壊力。
 血塗られた輝きを放つ大鎌。目の前の少女には似つかわしくない武具。
 その奇妙な景色に、少年は美しいとさえ感じた。
 しかし思考する時間も与えぬ、とばかりに二発目の豪撃。
 瞬く間に二撃、一度振るわれた翼が攻撃準備も無しに襲い来る。
 紙一重、少年は苦しくもそれをかわした。しかし。

 斬撃ざんげきの反動を利用した、少女の回し蹴りが脇腹で弾けた――



 今年の冬は異常だと言われる。
 冬は寒いものだ。そこは理解してやろう。しかし……
 異常なほど寒いのだ。それも少しどころの騒ぎではない。二月に入って急に悪化したわけでもないが、昨日は氷点下七度、ということだ。
 例年に比べ十度ほど下がっています。非常に寒いので気をつけて外出するようにしてください……。
 と、どこかの天気予報士が喋っていたが……なるほど、あんたの考え方、少しは理解してやろう。
 それにしても寒いな。ああ、寒い。凍り付きそうだ、俺が?いや、表現として世界が、だな。
 みてみろ、雪が降らないにしろ真っ白な視界を、……真っ白な……?
 一瞬、何が何だかわからなくなる。
 確かに真っ白だった。雪は、ないのに。
 いつの間にか俺は日常に戻る。
 何が、見えたんだろう……。

 日は傾き始め、寒さも際立ってくる。
 と、自然に俺の体も前に傾き始める。
 猫背の俺が歩いていく。
 休日に暇だからといって出かけるべきではなかった。
 そう思いながら。
 何故そんなことが判るかも解らない、という不自然で奇怪極まりない解釈のもとの考えだが……。
 そんな時、ふと気付いた。

 真っ白な世界で。



 ずっと真っ白なキミがいたんだ。






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